企業 IKEUCHI ORGANIC株式会社
ジャンル メーカー
従業員数 従業員数:23名

はじめに―

2015年に国連で採択されたSDGs(持続可能な開発目標)は、瞬く間に世界に広まりました。

2030年までに達成すべき社会課題解決の目標として定められたSDGsは、資本主義市場で同時期に注目されたESG投資と絡み合って国内でも広く浸透しつつあります。SDGsに対する取組みを掲げる企業はすでに目新しくなく、スローガンとして掲げる企業も増えています。

一方で、SDGsが世界に対して投げかけている根本的な“問い”については、十分に理解・浸透が進んでいないとも言われています。SDGsは、グローバル資本主義の中で構築されてきた現代の経営モデルの根幹を揺るがす変化を要請しているものであるという点です。

一企業にフォーカスして考えると、SDGsの取組みを継続し、その定着を図るためには本業への組み込みが不可欠であるとも言われます。SDGsを考慮した企業経営は2030年までの長丁場であること、バリューチェーン全体に取組みの内容と継続性が求められることなどから、イノベーションの創発を促す取組みによって、持続的な企業競争力の向上につなげることが期待されています。
そんな中、“持続可能性”を追求した企業経営を行い、自らがSDGs宣言をする(2017年6月3日宣言)以前からSDGsの事例として広く紹介されているのが、愛媛県今治市に本社を有する「IKEUCHI ORGANIC株式会社」です。同社はどのように本業へ組込み、創意工夫で企業競争力を高めているか、事例として学びたいと思います。

「IKEUCHI ORGANIC株式会社」の歩み

1953年、日本一のタオル産地・愛媛県今治市で創業。1970年代のオイルショックで“自社でしかつくることのできない品質の高いものをつくる以外に、生き残りの道はない”と確信。同社は1950年2月に池内忠雄氏によって創業、1969年2月に「池内タオル株式会社」として法人化しています。当初は今治タオルの輸出用OEM製造工場として誕生。問屋などから注文を受け、タオルハンカチのOEM製造工場としてのスタートでした。

1983年、現・代表である池内計司氏が入社した1983年当時のタオル産業は、国内市場に流れる商品は100%日本製が占める時代で、生産過剰な状態でした。タオルメーカーはいいブランドと取引のある問屋とつき合い、そこから発注される仕事さえこなしていればある程度売り上げが立つといういい時代でした。

そんな業界にあって、同社は少し違っていました。創業時からヨーロッパ、アメリカ向けの輸出商品を積極的に手がけ、創業から20年は海外向けが100%の輸出専業企業だったのです。
1970年代に起きたオイルショックを境に国内向け商品製造にシフトし、1983年当時を見ると、売り上げの20%が輸出。しかし、80年代のアメリカは大変な不況に見舞われ90年代に入ると徐々に減ってきた輸出はほとんどゼロになります。さらにオイルショック後、生産コストの安い中国やベトナムの工場が台頭し、国内の状況は厳しいものに変わっていきます。

この状況を、池内計司氏は言い換えれば海外の工場でも生産可能なタオルしか作っていなかったことの証であることに愕然とし、“自社でしかつくることのできない品質の高いものをつくる以外に、生き残りの道はない“と確信します。

高い織り技術を活かし、ブランド品の受託生産に取組む。同時に、もうひとつの新機軸「環境」に着目。

同社はジャカード織りの高い技術を強みとして様々なブランドのタオルハンカチの製造の道を選び、織り機もラインも組み替えていき、受託生産を手がけ、その収益が会社を支えていきます。

同時にもう一つ新機軸を考えていた。それが「環境」で、1989年に生まれた「エコマーク」をいち早く取得。「グリーン」という名前の環境に配慮した商品を展開していきます。しかし、当時のエコ商品はお題目だけのものと感じ、嫌気がさして環境配慮商品から撤退を決めます。

ところが、もう一度環境に本腰を入れて取り組もうと決心する出来事が起こります。それは1996年に来日したデンマーク、ノボテックス社の社長、ライフ・ノルガードさんとの出会いです。ノルガードさんは「グリーン・コットン」というオーガニック製品のブランド広めるために来日し、方々で講演活動をしていました。ノボテックスの自慢は自社の排水処理技術で、講演先で聴衆から「データ的にはもっと良い数字が出る染色工場がある」と聴き、今治市の企業7社で立ち上げた染色工場の協同組合「インターワークス」にやってきます。

インターワークスは1992年に完成した浄化施設で、世界で最も厳しいとされる排水規制が敷かれている瀬戸内法(瀬戸内海環境保全特別措置法)の基準をクリアする排水処理施設です。1日の排水処理能力2000トン。バクテリアによって長時間かけて処理するもので、施設からの排水は「海の水よりも透き通っている」とまで言われていました。ノルガードさんはこの施設の優秀さに驚嘆します。

そして案内した池内氏に、次のように続けました。
「ただもっと驚くべきことがある。経営者であるミスター池内、君が環境に対してここまで無知であることだ!」

この瞬間、池内氏は“ノボテックス社の環境に対する科学的、客観的事実を積み上げて製品を冷静に自己評価し、さらなる向上を目指すという考え方に学べば、新しいスタイルの環境配慮商品でビジネスができる”と、光明が見い出すのです。


そして環境対策への本格的な取り組みの第一歩として、ISOを取得していきます。

  • 1999年、企業の環境対策に関する国際規格「ISO14001」取得。タオル業界初。
  • 2000年、製品の品質保証に関する国際規格「ISO9001」を取得。

“世界で一番安全なタオルをつくりたい”と、世界で最も厳しい繊維製品検査機関で検査。
品質基準や数値を公表し、製品の安全性を示す。

そして1990年、「オーガニック120」販売開始。

「ISO14001」の取得で意欲が伝わり、ノルガードさんからグリーン・コットンの技術提供を受け、そのノウハウを用いて、1999年3月、池内タオル初のオーガニック・タオル「オーガニック120」(当時は「オーガニック・カラーソリッド1」シリーズと呼んでいた。2014年の社名変更時にオーガニック120と改名)を生み出し、販売を開始します。

これを持って進んで国内外の展示会や環境会議に出かけていきますが、当時、オーガニックに関心を持つ人々はディープなエコロジー運動家で、その席で、「オーガニック・タオルのデータを公表しなさい」、「原子力発電で生まれた電力を使っているのは正しいのか」、「オーガニックと言っておいて、化学染料で色を染めているのはどういうことだ」との声々が発せられます。池内氏はこれにひとつずつ応えていくことに決め、風力発電、ローインパクトダイ染色方法、ISO9001取得、「エコテックス規格100」のクラス1認定されるほどの染料の安全性改良に取り組でいきます。「エコテックス」は世界で最も厳しい繊維製品の検査機関で、2001年に検査を依頼。具体的な品質基準や数値を公表することで、製品の安全性を示すことにしたのです。

「ディープなエコロジー運動家の方々から洗礼を受け、池内タオル、そして私自身が変わらざるを得なかった。人生において特別な存在。世界でいちばん安全なタオルをつくりたい」という思いから生まれたタオル。販売目標を設定するわけでもなく、つくり手としての理想だけを追求した。」と語っています。

オーガニックに代表される環境配慮は、具体的に紹介すると、例えば原料である綿は世界的認証機関が認定した農薬や枯葉剤を使用しない、有機栽培の綿が原料。製糸は手摘みで収穫されたオーガニック・コットンをインドの認定紡績工場で製糸したオーガニック・ヤーンを使用といった具合に染色、織りの工程と、製品が完成するまで続きます。製品として安全性を保証する世界的に統一された認証システムである、「エコテックス規格100」の中でも最も厳しいクラス1を取得されているのだそうです。

2002年4月、日本初の風力発電100%の工場として稼働。
2003年8月「風で織るタオル」が経産省より認定。
2002年1月、池内タオルはグリーン電力を導入し、使用する電力の100%を風力発電に切り替えています。

しかし、風車の発電設備を持っているわけではなく、風力発電を直接利用しているわけではありません。同社ホームページでは次のように述べています。

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電力を選択する自由 気候変動問題の解決にむけて
自分で使う電力は、自分で選ぶ。IKEUCHI ORGANICは、風力発電をはじめとした再生可能エネルギーの普及によって気候変動問題解決に貢献することを目指し、風力発電を選択します。私たちは風車の発電設備も持っていないし、風力発電を直接利用できるわけではありません。その仕組みは、グリーン電力証書システム。私たちは、通常使用している電力料金支払のほかに、日本自然エネルギー株式会社を通じてグリーン電力証書を購入します。この購入費用を風力発電事業者が受け取り、従来の発電に比べてコストがかさむ自然エネルギー発電の設備、運営の強化にあてる。つまり、グリーン電力証書を購入することによって自然エネルギーを使ったとみなすことができ、かつ、自然エネルギーの普及に貢献できるというシステムです。
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「環境負荷の低い商品を扱っているから、その会社は環境にやさしい」という考え方がありますが、私はその考え方に違和感を覚えた。」、「自社が生産活動を行うこと自体が環境負荷になっている」と理解し、「その負荷自体の低減に取組まなければ、本当の意味で環境に配慮した商品をつくっていると胸をはって言えないのではないか」というのが、同社が電力をグリーン化した理由だと言っています。

こうして池内タオルは「自社の使用電力を100%風力でまかなう日本初の企業」となりました。そして、池内タオルがつくるタオルだから「風で織るタオル」と呼ばれるようになっていきます。

2002年4月、「NYホームテキスタイルショー」で最優秀賞「New Best Award」受賞。

2003年8月、売上げの7割を担う取引先が倒産、自社ブランド事業だけでやっていくと決意する。

池内オーガニックの自社ブランド商品の売上比率はわずか1%以下という状況のなか、国内のコアなファン層は徐々に拡大し、2001年1月には同社の姿勢に共感したファンによる『がんばれ池内タオル』というサイトがオープンしています。

2002年4月、自社ブランドタオル「IKT」(2000年、アメリカ進出にあたり、自社ブランド名を『池内タオル』から『IKT』に改名)はアメリカの織物品評会「ニューヨーク・ホームテキスタイルショー・2002年スプリング」で、最優秀賞「New Best Award」を受賞します。これを機に知名度が一気に高まり、海外での引き合いはもとより、国内では2003年9月以降には取扱店舗が一気に200店舗まで広がる予定であった矢先の2003年8月、売上の7割を担っていた取引先が倒産します。

池内氏はここで、当時売上げの1%以下、前年度売上げ700万円だった「IKT」ブランドを中心にして会社を再生する道を選びます。そして、IKTブランド全国販売開始予定日の前日の2003年9月9日、民事再生法の適用を申請します。そして、2004年2月、民事再生の申請認定。2007年3月、民事再生手続終了の道筋をたどりますが、その間、池内氏は、「再建のためにしたことは、実は多くはありません。ただひたすらに、信念をもってコンセプトを曲げることなく商品づくりに取組むこと。そして、そのコンセプトをひとりでも多くの方に知ってもらえるよう、労を惜しまず語り続けることです。」と語っています。

2014年3月、「IKEUCHI ORGANIC株式会社」に社名変更

翌年、「2073年(創業120周年)までに赤ちゃんが食べられるタオルをつくる」との目標を打ち出す。

2013年、創業60周年を節目に、今後の60年を見据えブランドの見直しをはかり、旧知の仲の『D&DEPARTMENT』代表のナガオカケンメイさんに依頼し、ブランドのCI(コーポレートアイデンティティ)に取組みます。

その結果誕生したのが、『IKEUCHI ORGANIC』です。

池内式のオーガニックを極める

そして、タオルにとどまらずオーガニックに関する様々なものに対して強い影響を与えていく。そんな存在を目指すとの思いを込めています。

翌年の2014年3月、ブランド名だけでなく企業名も「IKEUCHI ORGANIC」に変更します。「オーガニック120」が誕生して15年という節目でもありました。

2015年、創業65周年を機に、同社は創業120周年にあたる2073年までに「赤ちゃんが食べても安全なタオルを創る」との企業指針を掲げました。そして、主に食品製造事業者が取得を目指す「ISO22000」を業界で初めて取得、全製品赤ちゃんが口に含んでも安全な認証を取得することから始めています。

翌2016年6月、池内計司が代表という立場でモノづくりに専念し、阿部哲也氏が社長に就任。阿部社長は「オーガニックの道は、例えば最大限の安全と最小限の環境負荷という考えに終わりがないのと一緒で、オーガニックな企業にも終わりがないと思う。」とメッセージしています。同時に「ISO22000」取得の理由を、「赤ちゃんが舐めても安全」という基準から、「赤ちゃんが食べても安全」という製品基準にするのはどういう管理方法が適切か。

行きついたのが食品を生産する工場の管理基準であるISO22000を取得すること。安全性がしっかり確立されて、かつ消化できる(生分解する)ものであるという理屈で、生産するタオル等の繊維製品は「フードファブリック」であるという名目で取得したと語っています。

「2030年のSDGS達成に向けて、誰も犠牲にしないものづくりを目標とします!」と宣言

2017年6月3日、「2030年のSDGS達成に向けて、誰も犠牲にしないものづくりを目標とします!」と宣言しました。

阿部社長はファンイベントの場で、直近の目標として「IKEUCHI ORGANICは、2030年のSDGS達成に向けて、誰も犠牲にしないものづくりを目標とします!」と宣言しています。そして、現在の社会背景から、原材料手配の背景から、流通・販売面での問題の視点から同社の考える「誰も犠牲にしないモノづくり」について「現在の社会背景から」、「原材料手配の背景から」、「流通・販売面での問題について」という視点から、IKKEUCHI ORGANICの考えを発信しています。

例えば、現在の社会背景から持続可能とはどういうことなのかについて、「身の回りのモノがどういう経路でここまで来たのか?」、「本当に必要なものか否か?」、「数多ある社会問題」、「見えない原因や犯人・成果」、「知らない方が幸せ」、「何のためにやるのか」、「問題の単位」、「視野を広げる」、「続けられるか、続けるとどうなるか?」と話を進め、次のように導いています。

何かをやめる=それを生業としていた人が犠牲になる。
ということでありますが、大きな流れで言うと、将来的にどちらが持続可能なのかという判断基準で、いつまでにやめるか。
やめることによって不利益を被る人の生活をどうするのかという事を考えて、お互いが反目し合うのではなく支え合うことが大事ではないかと思います。

お客様はもちろんのこと、すべてのステークホルダーに共感を頂けるモノづくりを徹底する姿勢が伺えます。

企業指針

私たちの創る製品は食品であるとの考えのもと、創業120周年にあたる2073年までに赤ちゃんが食べても安全なタオルを創る。

コンセプト

① 風で織るタオル:グリーン電力100%でつくる 風力が動かすタオルの繊維
② 環境に配慮したものづくり・「最小限の環境負荷」の実現・色鮮やかにタオルを染める
③ ローインパクトダイ・人と自然環境を考えた染色方法


独自の展開

ファンイベント「今治オープンハウス」、「オンライン工場見学」


商品の独自性・こだわり

IKKEUCHI ORGANIC
オーガニック認証取得

① エコテックス100 繊維製品の有害物質含有レベル認証
② WindMade 再生可能エネルギーの環境ラベル
③ bio.inspecta オーガニック認証取得