企業 株式会社オムロン
ジャンル 大手電機メーカー
従業員数 オムロングループ28,006人 国内 10,600人、海外 17,406人(2020年3月現在)

理念と一致したSDGsアウトサイドインの実践

はじめに/ステークホルダー資本主義とSDGs

最近頻繁に「ステークホルダー資本主義」という言葉を耳にします。

株主至上主義に対応した言葉で、日本経済新聞では「コロナと資本主義」と題して特集を組んでいたり、近年とみに注視されている世界経済フォーラムの年次総会「ダボス会議」(今回が50回目。毎年1月に開催)では、2020年のテーマを「ステークホルダー資本主義がつくる持続可能で結束した世界」としました。利益を追い、株主に報いるという行動も、コロナ危機において変化を迫られ、世界的視野に基づいた国家や社会、従業員など幅広いステークホルダーに配慮する姿勢が求められています。

政治の分極化(両極化)や所得格差などによる価値観の衝突から生まれる社会分裂から、差し迫った気候変動による危機に至るまで、世界が直面する最大の課題に取り組むため、ステークホルダー資本主義(※)の確立に重点が置かれているのです。これらは、同時に政策エリートの方々の分極化がその背景にあるという指摘も少なくないことを見ておくことが必要です。

また、「ダボス会議」は、1973年の当初からのマニュフェストである「企業は、株主だけではなく、社会全体の利益に貢献するものでなければならない」という文言を見直し、「公平な課税、半汚職、役員報酬、人権の尊重を含め、現代における重要な問題に言及するステークホルダー資本主義のビジョンを示す」と内容を刷新しています。

※=ステークホルダー資本主義
株主の利益のみを優先するのではなく、顧客・取引先・地域社会などの利害関係者(ステークホルダー)全般への貢献を重視するべきという考え方

加えて、2017年にSDGs達成の過程で4分野6市場で、世界全体で約12兆ドル(1ドル=110円とすると1,320兆円)の事業機会が生まれると発表。SDGs達成に向けた取り組みが、企業の持続的成長を促すことを示唆しています。

日本における企業のアウトサイドイン取り組み事例としてオムロンを選んだ理由

日本の企業で、ステークホルダー資本主義を標榜しているのはどんな企業だろうかと調べた結果、オムロン株式会社(以下、オムロンと表記)が浮き彫りにされました。オムロンの最近の動向をみると、2019年12月、日本経済新聞が主催する「日経SDGs経営大賞」で、「SDGs戦略・経済価値賞」を受賞しています。その理由は、

  • ①企業の公器性を上げ、事業を通じた社会発展への貢献を実施してきたこと。
  • ②2017年度から、役員報酬制度における、中長期業績連動報酬に第三者機関によるサステナビリティ評価を加えていること。
  • ③創業以来、事業を通じた社会発展への貢献にフォーカスしていること。と自己評価しており、主催者は、主な取り組みとして脳卒中などの減少を目指す腕時計型血圧計といった製品を通じ社会課題の解決に注力していることや、AIで生産性向上も推進していることを紹介しています。

また、外部からの評価の一つとして、「未来につなげるSDGsとビジネス」(2018年3月発行/(公財)地球環境戦略研究機関)では、SDGsの本業化―企業活動の項で、取り組み事例としてオムロンを取り上げ、経営とサステナビリティの統合の先進モデルと言えると紹介しています。

以上から、オムロンのSDGs導入の全体像を把握することで、SDGs導入の事例としてご紹介します。

オムロン株式会社 ― 理念の精神と一致したSDGsアウトサイドインの実践

1)創業の精神は、「企業は公器」である。

オムロンは、立石電機製作所として1933年(昭和8年)5月10日(1948年(昭和23年)立石電機株式会社、1990年(平成2年)オムロン株式会社と社名変更)に立石一真氏によって創業しています。

現在の企業理念は、会社の憲法とされる社憲“Our Mission”と社員一人ひとりが大切にする価値観”Our Values”で構成されています。この社憲がどんな経緯で生み出されたか、創業者立石一真氏の著者「私の履歴書」(1975年1月発刊)から紹介します。

社憲「われわれの働きで われわれの生活を向上し よりよい社会をつくりましょう」は、1959年(昭和34年)に制定されました。社憲制定のきっかけは、1953年にアメリカの中小電機工場視察旅行に出かけたこと。「アメリカ企業のたくましさは、アメリカがキリスト教国であることと、企業に一本パイオニア精神というバック・ボーンが通っているからだ」と発見し、「では、何をもってわが企業のバック・ボーンとするか」と模索します。昭和31年春の経済同友会総会で「経営者の社会的責任の自覚と実践」との講演を聴き、“「企業の公器性」をバック・ボーンとしてとらえ、企業は社会に奉仕するためにあるのだ。“と、強烈に腹落ちさせました。しかし、企業の公器性という哲学めいたことを、平均21、2歳という若者には伝わらない。わかりやすい言葉で社憲にまとめようと考え、「われわれの働きで われわれの生活を向上し よりよい社会をつくりましょう」との一文に行きついたとあります。

社内浸透にあたっては、折に触れて具体的にかみ砕いてメッセージを発信しています。また、“企業の公器性”について、企業としては、“どこまでも筋を通さねばならぬと思う。”と自身に言い聞かせています。

同時期に、初めての長期経営計画を策定しています。現代経営学の発明者と言われたピーター・ドラッカー教授がはじめて来日し、アメリカの経営学ブーム学が始まり、五ヵ年計画といった長期経営計画策定が一種の流行となってきた時代だったとあります。

理念をバック・ボーンとする経営姿勢は受け継がれ、3代目代表取締役社長の立石義雄氏は、“オムロンの企業哲学なり企業理念というものは、オムロンらしさを体現するものです。そこに企業としての求心力を持たせたいというのが、私の考えです。”と著書「未来から選ばれる企業」(2005年11月発刊)に記しています。
オムロンでは、1990年に社憲を進化させて「企業理念」を制定し、2015年に3度目の改定を行いました。2015年に改定した企業理念では、社員一人ひとりが大切にする価値観・Our Valuesとして、「ソーシャルニーズの創造」、「絶えざるチャレンジ」「人間性の尊重」の3つが示されています。

Our Mission(社憲)/
われわれの働きで われわれの生活を向上し よりよい社会をつくりましょう

Our Values(私たちが大切にする価値観)/
ソーシャルニーズの創造:私たちは、世に先駆けて新たな価値を創造し続けます。
絶えざるチャレンジ:私たちは、失敗を恐れず情熱をもって挑戦し続けます。
人間性の尊重:私たちは、誠実であることを誇りとし、人間の可能性を信じ続けます。

経営のスタンスを次の通り示しています。

私たちは、「企業は社会の公器である」との基本的考えのもと、企業理念の実践を通じて、持続的な企業価値の向上を目指します。
長期ビジョンを掲げ、事業を通じて社会的課題を解決します。
真のグローバル企業を目指し、公正かつ透明性の高い経営を実現します。
すべてのステークホルダーと責任ある対話を行い、強固な信頼関係を構築します。

 

 

2)経営の羅針盤・独自の「SINIC理論」で、未来を見据えたバックキャスティング型の価値創造を実現

「SINIC理論」とは、創業者が1970年に発表した未来予測論で、オムロンはこれを未来シナリオとし、経営の羅針盤としています。

SINIC(サイニック)とは、Seed Innovation to Need Impetus Cyclic Evolutionの略です。科学と技術と社会の間には円環的な関係があり、相互に刺激し合って社会を変貌させるというのが基本的な考え方です。SINIC理論では、2020年現在は「最適化社会」の過程にあるとされています。かつての「情報化社会」から、現在の「最適化社会」を経て、次の社会は、自分らしさの発揮と他者との協調が両立する「自律社会」になるとされています。

オムロンでは、自らの手で自律社会を実現していくために技術経営を強化しています。

3)事業戦略とサステナビリティ重要課題を連鎖させて運営

オムロンでは、中期経営計画「VG2.0」において、業績目標と事業戦略、サステナビリティ重要課題を連鎖させ、一体として運営しています。VG2.0は、オムロンの企業理念を軸に、世界の潮流や社会の変化、SINIC理論、SDGsを考慮した未来を起点とし、バックキャスト型で策定されました。

サステナビリティ目標も、SDGsの達成年でもある2030年の「持続可能な社会づくり」からバックキャストして策定された中期経営計画「VG2.0」に組み込まれています。具体的には、VG2.0における3つの事業ドメイン(ファクトリーオートメーション、ヘルスケア、ソーシャルソリューション)ごとに、財務目標とともにサステナビリティ目標が設定しています。設定にあたっては、事業部門のトップを交え、目標をどこにおくのか(たとえば、売上、シェア、GDP、健康寿命)などについて徹底的に議論した結果、事業を通じて生み出される社会的価値につながる目標を据えています。このようなサステナビリティ目標は、定性的であれ定量的であれ社内での計測が可能なものが採用されています。

ヘルスケア事業では、サステナビリティ目標として血圧計の販売台数が設定されています。該当商品の売り上げが達成することは、より多くの高血圧症患者に血圧を測るという価値を届けることになり、結果として脳・心疾患対策に寄与でき、それがSDGsのゴール3「すべての人に健康と福祉を」への貢献につながるという考えです。

4)SDGs導入のステップ

SDGs導入のステップは次の通り。

  1. 17の目標から、オムロンの技術や商品・サービスを使って貢献できる領域を特定し、2030年を見据えた長期にわたるシナリオを描いた。
  2. そのうえで中期経営計画のゴールである2020年の段階で社会に対してどこまで価値を提供すべきなのか、バックキャストで設定。
  3. SDGsの推進にあたっては、取締役がオーナーシップを持っている。執行側が短期の業績達成だけ考えていないか、中長期の視点で見たときに持続的な社会への価値提供とSDGsの達成に貢献する経営判断をしているか。これを監視・監督するのが社会から選ばれた株主の代表で構成している取締役会の責任であると考えている。
  4. 進め方は今年度のサステナビリティの取組方針を取締役会が決め、執行側に伝え、執行側が事業と本社が取り組むべき課題を方針に従って実行する。
    その過程で、本当に社会にとって良いことなのか、頻繁にコミュニケーションしている。
  5. 中期経営計画の事業とSDGsの達成も外部とのパートナーシップを前提としている。
  6. 社内へのPRは重要。社員が腹落ちして自分ごととして取り組めないと、絵に描いた餅になってしまう。社員が最も重要なステークホルダーだと考えて、そのうえでコミュニケーションを検討している。
  7. 目指すのはいかに持続的に企業価値を向上していくか。SDGsは企業にとってリスク要因にも事業成長のための機会にもなり得る重要な位置づけになっている。
    一つの部署だけでなく、全社の経営レベルでコミットして取り組む姿勢が問われる。

5)サステナビリティ方針、マネジメント構造、課題と目標の決定プロセス

サステナビリティ方針

本方針は、企業理念体系の「経営のスタンス」で宣言していることと同義と捉え、同一としている。

マネジメント構造

  • SDGsの推進にあたって取締役会がオーナーシップを持っている。
  • 年度の取組方針を取締役会が決め、執行側に伝え、執行側が事業と本社が取り組むべき課題を、方針に従って実行する。

【サステナビリティ推進のための全社マネジメント構造】

サステナビリティ課題と目標の決定プロセス

ステップ1/重要課題の明確化

VG2.0の注力ドメインであるファクトリーオートメーション、ヘルスケア、ソーシャルソリューションの領域における社会的課題から「事業を通じた社会的課題解決」の重要課題を設定。
ステークホルダーの期待に応えるサステナビリティ課題の中で、中長期で重点的に取り組む重要課題(マテリアリティ)を明確化。
前提として、グローバルな社会的課題やESGのトレンドを様々なステークホルダーの考えをもとに分析し、経済・環境・社会の課題を広範囲に抽出。

ステップ2/目標設定

上記の2軸からなる課題解決をより確実なものにするため、目標を設定し、VG2.0に組み込む。

ステップ3/経営レベルでの議論と承認

CEOが議長を務め、執行役員が出席する経営会議での議論を経て、取締役会にて審議、承認。

ステップ4/進捗管理と情報開示

設定した定量/定性目標・KPIを達成するため、サステナビリティの全社マネジメント構造において進捗を管理し、結果を情報開示。

6)サステナビリティ取り組みの特徴

  • ①サステナビリティ方針を定め、中期経営計画と統合したサステナビリティ目標とKPIを設定。サステナビリティ目標の達成が中期経営計画の達成となり、かつSDGsへの貢献につながる。
  • ②サステナビリティ課題の設定にあたり、「事業を通じて解決する社会的課題」と「ステークホルダーの期待に応える課題」の双方を取り上げ、社員全員による参画を意識。
  • ③取締役会がサステナビリティ方針を設定し、サステナビリティ課題に対する取り組みへの監視・監督機能を果たすことを宣言。
  • ④経営トップ層の中長期業績連動報酬を決定する際のKPIのひとつに、第三者機関のサステナビリティ指標に基づく評価を採用。
  • ⑤サステナビリティ方針・目標・KPI・進捗状況を統合レポートを含む様々な媒体で開示し、ステークホルダーとの対話を強化することにより、取り組みの進化に活かしている。

7)企業市民活動の取り組み

オムロンは伝統的なCSRとも呼ばれる寄付やボランティアといった社会貢献活動(=企業市民活動)にも、国や地域のニーズに即した活動を間接的、直接的の2つの側面から積極的に取り組んでいる。障がい者支援をはじめ、科学技術、社会福祉、災害支援など他分野にわたる。

推進は、グローバル人財総本部がグループ全体の社会貢献活動を統括する体制のもと、社員一人ひとりが企業市民としての自覚を持ち、社会が抱える課題の解決に自主的に取り組むことを目指している。

おわりに

“SDGsに取り組みたいが、どのように導入したらよいか”という課題に対して、1つの事例としてオムロンの取り組みを紹介しました。

社会課題解決型事業として、①完全自家消費対応の太陽光発電用パワーコンディショナー「KPW-A-2」(2020.6月発売)や、②「ウエアラブル血圧計 HCR-6900Tシリーズ」、「自動血圧計 HBP-9030シリーズ」、「ひざ電気治療バンド HV-F710」などが上げられます。

つい最近、オムロンが新型コロナウイルスの収束後に収益拡大が期待できる「アフターコロナ」銘柄として注目を集めているとのニュースを目にしました。

持続可能な社会づくりにどのように貢献するか。
今、すべての企業に同様に課せられているテーマであると言えるのではないでしょうか。