【第30回】原田勝広の視点焦点:SDGインパクト渋澤氏に聞く【アウトサイドイン・アイ】

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アウトサイドイン・アイでは、皆様の

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今回は、オルタナ論説委員原田勝広 氏 

原田勝広の視点焦点:SDGインパクト渋澤氏に聞くです!

国連サミットで採択されたSDGsのブームは衰えるところを知らない勢いです。早ければ今年中にも担当部署の国連開発計画(UNDP)が「SDGインパクト」という認証制度をスタートさせます。企業活動などがSDGsの目標(17ゴール)達成にインパクト(効果)があるかどうかをスタンダード(基準)に基づいて評価します。企業の関心が高いこのSDGインパクトがなぜ導入され、どんな意味を持つのか、また内容はどういうものか、このテーマに詳しいUNDP SDG Impact Steering Groupの運営委員のひとりである渋澤健コモンズ投信会長に聞いてみました。

価値創造のためのツール
――まず、SDGインパクトとは何でしょう。

企業の事業にSDGsを落とし込んで価値創造しようというツールですね。SDGsはカッコいいからブランディングやマーケティングに利用するというものではありません。日本企業の場合、経団連のリーダーシップもあって、SDGsには関心が高く熱心だが、自社の活動とSDGsの目標を紐づけるところも多い。その先、具体的に何をしたらいいのかわからないという企業もあるような気がするし、投資家もそう感じている。

――なぜ、この時期にSDGインパクトという新たな基準に基づく認証制度を?

SDGsのスタートは2016年で、もう5年たってしまった。2030年まで残り10年です。SDGsは達成が困難な目標もありますが、必要な資金は、コロナ前、しかも途上国だけで年間2.5兆ドルと言われています。もっと民間からの資金導入をしなければなりません。そのために、企業、債券、プライベート・エクイティ(PE)に期待するということ。ひとことで言うと目標を達成するために民間から新しいお金をつくらないといけないということです。単なる企業PRのための認証という考えはUNDPにありません。

――SDGs関連では既に原則や指針が存在します。投融資はUNEP-FIの「ポジティブ・インパクト金融原則」、債券は国際資本市場協会(ICMA)の「サステナビリティ・ガイドライン」、国際金融公社(IFC)の「インパクト投資の運用原則」などです。こういうものとどう違うのでしょう。

私が運営委員就任を依頼された時、スタンダードを作って認証を与えるという話だったので、当初はチェックリストかなにかあって、それをちゃんとやっているかどうかを見てクリアーすればUNDPが認証を与えるのかと思った。しかし、実際に出席するそうではなかったということがわかってきました。 これまでのSteering Groupの議論で、UNDPは盛んに「ハイレベル」という言葉を使っていました。確かに、似たような原則やガイドラインが他にありますが、それと同じものをまた作るということではない。もう少し包括的で理念的なものになります。

SDGインパクトの基準は?
――SDGインパクトは具体的にどんなスタンダード、基準ですか?

スタンダードは、企業の場合だと4つあります。Strategy(戦略)、Management Approach、透明性、ガバナンスです。ボックスチェック的なものではまったくなく、例えばStrategyでは、ある事業を行う場合、「なぜこれをやるのか」が問題です。何をやるかではなく、また、いかにやるかでもなく、そもそもなぜやるのかの企業の戦略が問われるのです。

企業は経営戦略のキーワードとして今、パーパスという言葉を使い始めています。なんのために会社が存在するのかということですが、これに似ています。ハウツーよりもっと俯瞰した概念です。 企業理念にSDGsをいかに取り込むか、SDGインパクトはそのためのひとつの手段になるのです。単にSDGsをやっていますよ、と見せるということではなく、企業価値につなげようとしている。そういう意味ではすごく厳しいが、非常に意味のあるものだと思います。

企業理念に合致できれば4つの基準に沿って 1.SDGsを戦略として取り入れ事業を企画 2.それに沿って事業を実施 3.透明性確保と説明責任を果たす 4.組織としてSDGsにコミットしていくーという包括的なプロセスが評価されることになるわけです。

――対象は企業そのものですか、企業が実施する事業ですか?

企業です。あとは債券とPE。

――基準を策定するのがUNDPで、認証は第三者に任せるわけですか?

第三者認証は専門機関ですね。2020年2月の時点では、UNDPは2020年末には始めたいとしていましたが、もう少し時間がかかるようです。今年2月頃にはSDGインパクトの企業の最終案が出て、債券、PEと合わせて3つそろえば認証機関に対する訓練も始められます。認証機関の数は多すぎて乱立するのもまずいし、かといって少なくて大手ばかりでは敷居が高く、企業側は腰が引けてしまうのも課題になります。いずれにしろ、6月からデューク大学などでの訓練が開始されれば、SDGインパクトはパイロット的に早ければ今年中にはスタートするでしょう。

――日本企業にとっては大変な変革が求められるわけですね。

大変かもしれないが、これまで表面的な化粧で済んでいたものが、運動してちゃんと新賃代謝を高め、本当に健康な体をつくろうという考え方で、評価できます。利益重視のミルトン・フリードマン的な考え方は、トランプ政権も支持していましたが、今や、ステークホルダー資本主義が謳われるようになっています。米国でさえがそれだけ変わっているわけです。時代の流れですね。

日本企業の取るべき対応について
――具体的に日本企業はどう対応したらよいですか。

SDGインパクトはきわめてロジカルです。日本企業の場合、立派な創業者理念があっても、それを壁に張ってあるだけだったりする。そうではなく、基準に沿ってしっかり実践しなくてはなりません。そういう意味では、SDGsの担当者だけで申請して調えるものではなく、全社的な取り組みとトップのコミットメントが不可欠になるでしょう。日本企業にとってはかなりハードルが高いかもしれません。

SDGsに関心が高いといいっても具体的にどこから始めたらいいのかわからないというところも多いでしょう。とりあえず、統合報告書作成の際に、SDGインパクトの基準を取り入れることから始めて、自分たちで表現することをお勧めしたい。そういうツールとして使いながら、経営トップの理解を深めていくというのが現実的ではないでしょうか。

――Steering Groupの運営委員の顔ぶれは?

UNDPのシュタイナー総裁のほか、インターナショナル・チェンバー・オブ・コマースのデントン総裁や、インパクト投資の父、英国のコーエン氏。さらに中国、インド、シンガポール、香港、アフリカなど世界の金融、企業の専門家もメンバーに入っています。2020年6月に会議に初めて出席した際、シュタイナー総裁が「SDGインパクトは決して西欧の価値観を押し付けるものではない。アジア的な価値というものもあるから」と話し、運営委員から「そうだね、中国もある」「タイもあるし」という声が出ました。

その場で私は「日本を忘れないで」と注文をつけました。それほど、日本は出遅れている。ちょっとショックでした。日本では地方でも、中小企業でも多くの人がSDGsのピンバッジを身に付けていて真面目にSDGsに取り組もうとしている。しかし、残念ながら、日本の関心の高さは世界では知られていません。こういう会議に顔を出して主張しないとやってないのと同じ。スルーされてしまう。日本企業の熱意も知られなければ評価もされない。

――それは悔しいですね。

その後、コロナが広がり、昨年12月の日本向けSDGインパクト説明会は急遽、オンラインで行いました。登録者は300人で半数は企業関係者でした。私が評議員をつとめる社会的インパクト・マネジメント・イニシアチブ(SIMI)でも説明会を開きましたが、企業関係者はSDGインパクトに強い関心を持っていました。そこで出された日本企業の声をUNDPに届けないといけないと思っています。そうしながら日本からもうまくコミットしていくことが大事です。

◆原田勝広:オルタナ論説委員。日本経済新聞記者・編集委員として活躍。大企業の不正をスクープし、企業の社会的責任の重要性を訴えたことで日本新聞協会賞を受賞。明治学院大学教授に就任後の専門は国連、CSR, ESG・SDGs論。2018年より現職。著書は『CSR優良企業への挑戦』など多数。

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